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衆議院本会議 2001年(平成13年)2月5日
衆議院議員 自由民主党
 幹事長 古賀 誠
私は、自由民主党を代表して、さきに行われました森総理大臣の施政方針演説に対し、質問をさせていただきたいと存じます。

 最初に、去る一月二十六日に、インド西部の大地震により、多数の人命が失われ、甚大な被害が発生しました。被災された方々に心よりお見舞いを申し上げますと同時に、速やかな復興をお祈りいたします。日本政府において、医療チームの派遣、援助物資の供与など可能な限りの支援をしておりますが、引き続き万全な救援措置を講じていただきたいと存じます。

 また、有明海のノリ養殖の深刻な被害について、自由民主党は既に被害調査対策本部を立ち上げ、去る一月二十六日、与党三党の幹事長等で現地を調査いたしました。政府としても、被害原因の徹底究明を総合的に行うとともに、漁業関係者への緊急の生活支援を初めとする支援措置について、万全かつ早急に対処していただくよう要請するものであります。

 さらに、一月三十一日、日航機同士が異常接近するという事故が起きました。衝突回避した一機の中で負傷された方々に、心よりお見舞いを申し上げます。今回の事故は空前の大惨事になる寸前だったことを重く受けとめ、自由民主党としては、国民の不安を解消するため、ニアミス事故調査対策特命委員会を設置したところであり、政府においても原因究明と再発防止に全力を挙げることを求めるものであります。

 さて、二十一世紀の扉が開かれました。いよいよ新たな百年が始まります。ちょうど百年前、二十世紀を迎えるに当たって、福沢諭吉先生はこんな言葉を残したそうです。「独立自尊、新世紀を迎ふ」。昨年、この言葉を知り、私は深い感銘を覚えました。独立自尊とは、独立して世に処し、みずからの人格と威厳を保つことでありますが、百年たった今も少しも古さを感じさせないばかりか、むしろ、二十一世紀を迎えた日本国民全体、とりわけ我々政治家に重いメッセージを伝えていると思います。

 私は、この意味するところをかみしめながら新年を迎え、二十一世紀という新たな世紀が希望に満ちた平和な世紀になるよう、一政治家として身を賭して邁進することを決意した次第であります。

 しかし、年明け早々、独立自尊の精神とは裏腹に、まことに残念なことが起きてしまいました。いわゆるKSD事件をめぐって、小山孝雄参議院議員が受託収賄容疑で逮捕される事態が生じました。政権与党の中枢にある我が党に国民の厳しい怒りの視線が向けられているのは当然であります。公党を預かる者として国民の皆さんに、政治の信頼を損なったことに、また、友党の公明党、保守党の皆さんに、御迷惑をおかけしたことを深くおわび申し上げる次第であります。

 我が党としては、小山議員に対し強く離党を勧告、同氏は離党し、最後は議員を辞職されました。当然、事件そのものについては司直の手にゆだねるほかはありません。問題は、自民党としての反省と改革であります。二度とこういう事態が起きることのないよう、組織の総点検をして問題点を洗い出し、具体策を講じることだと考えます。加えて、政治家一人一人が政治倫理について深く思いをいたし、みずからを厳しく律することが肝要であります。小山議員の議員辞職、額賀経済財政担当大臣の辞任は、その反省と自戒の第一歩と受けとめていただきたいと思います。

 我々政治家にとっては、倫理は最重要の問題であります。政治倫理の問題は、古くて新しく、新しくて古い問題であります。マックス・ウェーバーは、「職業としての政治」という著書の中で、政治家の力の中には善悪が渦巻いていると指摘し、禁欲、すなわち欲を禁ずることが政治家の大きな課題であると言っております。我々政治家は、国会の議席を国民から負託された栄光の座として誇りを持つ一方、職業としての政治家として、物欲を断って職責を果たす責任を常に感じておかなければなりません。

 衆参両院で議決された政治倫理綱領は、その冒頭にこううたっております。政治倫理の確立は、議会政治の根幹であります。まさに至言であります。この言葉をかみしめ、今回のKSD事件を教訓に、日本の政治と自由民主党の信頼回復に全身全霊を注ぐ覚悟であります。

 総理はこの政治倫理についてどうお考えか、最初にお尋ねしたいと思います。

 外務省職員による公金横領事件についても触れなければなりません。まことにざんきにたえないことであります。外務省の調査結果と処分が発表されましたが、国民の怒りはさらに増幅された印象を受けます。これだけ巨額の公金が不正に流用されるには、組織として欠陥があったものとだれもが考えているからであります。

 福島県二本松市に、二百四十数年前に建立された戒石銘という石碑があります。そこには、藩主が藩士に対する訓戒として次のように刻まれております。
  爾の俸 爾の禄は
  民の膏 民の脂なり
  下民は虐げ易きも
  上天は欺き難し

これは、おまえがお上からいただく給料は人民の汗とあぶらの結晶である、下々の人民は虐げやすいけれども、神を欺くことはできないという意味でありましょう。政治倫理の確立が強く求められると同様、公務員も公僕として、そのような戒めを肝に銘ずべきであります。

 今回の事件を踏まえ、外務省の組織、体制のあり方について総理は外務省をどのように指導されるおつもりなのか、さらに、横領事件のきっかけとなった報償費のあり方についてどうお考えになるのか、お伺いしたいと思います。

 さて、日本にとっての二十世紀を振り返ってみますと、前半は戦争の半世紀でした。とりわけ第二次世界大戦が、日本を焼け野原にし、多くの国民の皆様方に戦争の傷跡を残しました。そして、今なお戦争による心の傷を多くの国民の方々が引きずっているのもまた事実であります。

 戦争で父を亡くした遺児である私の大きな政治目標は、日本の平和と世界の平和の実現であります。再び日本の国が戦火にまみれ、戦争の渦に巻き込まれることのないようにしたい、国家主義や全体主義の国にしてはならない、こうした考えが私自身、政治を志した原点であります。私は、この原点を終生忘れることなく政治活動を続けていく覚悟であります。

 戦争の半世紀に対し、二十世紀の後半は、ある意味で成長と繁栄の半世紀だったと言えるでしょう。第二次世界大戦後、我が国は、荒廃の中から立ち上がり、欧米先進国に追いつけ追い越せを目標に、経済復興を最優先する政治方針のもと、科学技術の発達や工業化の進展、さらに勤勉な国民の努力によって、驚異的な経済成長をなし遂げ、あらゆる面で国民生活は向上し、平和で豊かになりました。

 しかし同時に、負の遺産もたくさん背負うことになりました。経済至上主義は、大量生産や大量消費を生み、公害や化学物質による汚染、首都圏を中心とする人口の一極集中、物の一極集中、金の一極集中、その反面、多くの過疎地を生み出しました。

 こうしたもろもろの負の遺産は、国民の皆さんの英知をおかりし、御協力もいただきながら、我々政治家が責任を持って二十一世紀の早い段階に解消していかねばならない課題であります。そして、国民の皆さんが、この国に生まれてよかった、そう誇りに思っていただける国にしなければいけないと考えております。

 そこでまず、二十一世紀の日本はどうあるべきなのか、総理の考えておられる国家像をお示しいただき、それを実現するために政治はどうあらねばならないのか、総理の政治理念を含めて、率直にお考えをお聞かせください。

 ところで、二十世紀の後半は成長と繁栄の半世紀と総括しましたが、世紀末の最後の十年は混乱が続き、残念ながら、お世辞にもよい十年とは言えないと思います。言い古された言葉ではありますが、失われた十年と言っても過言ではありません。では、なぜこのような十年をつくり出してしまったのか。幾つかの要因があると思います。その一つに、政治の混迷と混乱があったと思います。我々政治家は、このことに対してひとしく反省しなくてはなりません。

 平成五年、自由民主党の分裂以来、政治の安定は大きく揺らぎました。中でも、細川、羽田内閣の無責任な政権運営、すなわち予算の提出、成立の異常なおくれが原因となった経済の低迷はここから始まり、取り返しのつかない失政であったのであります。

 その後、政党、政治家の離合集散の繰り返し、平成十年の金融国会の混迷などを教訓として、小渕総理が、政治が安定してこそ最良、最大の責務を果たせるとの思いの中で、熟慮の末に決断されたのが、今日の自民党、公明党、保守党三党による連立政権の樹立であります。その結果として、予算の年度内成立や数々の重要法案の迅速な処理など、着実に成果を上げ続けてまいりました。

 政治の安定なくして政権の安定はあり得ません。平成元年の竹下内閣総理大臣から現在の森総理大臣まで、十二年間で十人の総理大臣が誕生しています。このような状況で、政治が安定していると言えるでしょうか。これでは、どんなすばらしい政治家が政権を担当しても、政権に信用、信頼が生まれるはずがありません。政治の安定があってこそ、初めて政府と国家に信用、信頼が生まれるのです。政治の安定なくして国民の政治への信用、信頼は決して生まれず、真に国民に必要な政策を円滑にかつ迅速に遂行することはできないと思うのであります。

 その観点に立って、私は、二十一世紀最初の一年は政治の安定を取り戻すことに全力を挙げたいと思っております。それが失われた十年を取り戻すことであり、失われた二十年にしないための最大、最良の道だと考えるからであります。

 政治の安定の第一歩は、国民の政治に対する信頼を得ることであります。そのためには、まず何よりも、自由民主党が、国民の信頼を取り戻し、安定していなければなりません。

 現在、我が国には政治不信、政党不信が蔓延し、現政権に対する批判があることも十分承知しています。しかし、現在のような基本政策が一致しない、無責任きわまる野党に政権をゆだねるわけには到底まいりません。だからこそ、連立政権の中心である自由民主党は、国民のための政治、スピーディーでダイナミックな政治に全精力を注ぎ込み、同時に、反省しなければならないことは謙虚に反省し、正さなければならないことは思い切って正す、そうした党改革を断行しなければなりません。

 また、公明党、保守党との連立の継続は、政治の安定、政権の安定にとって絶対不可欠であります。我が党は、反省と改革を進めながら、連立政権の基本である信頼と互譲の精神で、一層強力な与党関係の構築に最大限の努力を重ねていきたいと考えております。

 そこで、総理にお尋ねいたします。政治の安定のためには何をなさなければならないかとお考えでしょうか。また、現在の与党三党の連立政権をどう評価し、今後どのような展望を持って連立政権を運営されるのか、御答弁願います。

 私は政治の安定を強調しましたが、そのことは、従来の仕組み、構造を頑迷に墨守するということではありません。

 例えば、選挙制度であります。連立三党は、昨年、衆参両院の議員定数を削減いたしました。また、平成二年の選挙制度審議会答申以来、その懸案であった参議院比例代表制を人物本位に改革いたしました。そして今、衆議院の小選挙区比例代表並立制のゆがみが指摘され、昨年の国勢調査の結果、いわゆる一票の格差の拡大による定数是正が必要になってきており、さらに一歩踏み込んで、制度全体のありようについて議論を始めることが重要だと考えております。

 選挙制度の見直しについては、総理はどう考えておられるのか、お考えをお示しいただきたいと思います。
 さて、失われた十年の一つの要因が政治の混迷と混乱であったとすれば、もう一つの要因は、経済の低迷であります。

 そこで、連立与党は、数次にわたって経済対策を実施し、経済の下支えを行ってきました。その結果、日本経済は、決定的な崩壊には至らず、何とか明るい兆しが見えるところまで回復してまいりましたが、いまだ安心できる状況ではありません。

 小渕前総理は、経済の再生に全力を傾注され、残念ながら、道半ばにして命を落とされました。私たちは、小渕前総理の無念とその思いをみずからの使命に置きかえ、日本経済の再生、我が国経済を自律的回復軌道に確実に乗せるために全力を挙げて立ち向かう覚悟であります。

 今後は、日本経済の安定のためにも、さきの臨時国会で成立した平成十二年度補正予算を迅速的確に執行するとともに、平成十三年度予算、税制改正及び予算関連法案を一日も早く成立させ、目標とする経済成長率一・七%を達成することが重要であると考えます。総理の今後の経済運営に関する基本的な考え方をお聞かせください。

 もう一つの大事なことは、経済を上昇軌道に乗せる一方で、一日も早く財政構造改革に取り組む必要があるということであります。責任与党として、財政構造改革という道しるべを国民の皆様方の前に明らかにする時期が私はもう来ているのではないかと思うのです。

 確かに、あの金融危機で日本経済がどん底にあるとき、小渕前総理、森総理は、思い切った財政の出動をし、政策を総動員して経済の再生に取り組んでこられました。だからこそ、我が国は経済が沈没せずにきょうここまで持ちこたえることができた、日本発の世界恐慌を食いとめることができたと私は思っております。

 しかし同時に、平成十三年度末には、国と地方の長期債務残高が六百六十六兆円に上ることもまた厳然たる事実であります。これを政治の責任で何とかしなければなりません。

 財政構造改革、言葉の響きはいいけれども、財政構造改革の推進は、国民の皆様方にさまざまな分野で痛みを分かち合っていただかなければならないことであります。どのような社会保障の負担と給付のあり方が適当なのか、国の財政が負うべき役割は何か、こういった議論を尽くしていくことが不可欠であります。今般、連立与党が政府・与党社会保障改革協議会を立ち上げたのも、その一つであります。

 責任与党である我々が、勇気を持って、歯を食いしばってでも財政構造改革をやっていくのだという決意とビジョンを明らかにし、明確なグランドデザインさえしっかり提示できれば、たとえ痛みを伴う改革であっても、国民の皆様は理解してくれるに違いありません。総理の決意をお聞かせください。

 さて、ことしの一月六日、二十一世紀の幕あけとともに、明治維新や戦後改革にも匹敵する中央省庁の再編に伴う新省庁体制がスタートしました。この大改革は橋本元総理の情熱と決断で実現したものであり、新しい世紀を新しい政府で出発することの意味の重さを痛感するものであります。

 今回の改革の最大の特徴は、国政の場における政と官の責任体制を明確にすることであります。首相を中心とする内閣主導で、国民本位の政策をスピーディーに決定する政治主導の仕組みを整備したものであります。

 大事なことは、仏つくって魂入れずということだけは断じて避けなければなりません。国民の立場に立ち、国民の視点から見て、新しい行政組織が期待されるとおり運営されていくことが重要であります。このことを注意深く見守るとともに、新省庁体制が円滑にスタートし、その実が上がるよう、与党三党が一致協力してバックアップしていきたいと考えております。

 総理は、先般、いわば二〇〇五年行革ともいうべき作業を指示されました。この国の形を実現するため、明治維新以来の改革を完結されることを考えておられることと思います。そこで、これまでの行革とこれからの行革の位置づけについて、そして、二〇〇五年行革に取り組む総理の決意をお伺いいたします。

 次は、総理に憲法問題についてお伺いいたします。

 あの焦土と化した我が国が今日あるのは、今の憲法が日本国の根底に強く存在していたからだと私は信じます。日本国憲法の前文にうたう主権在民、平和主義、基本的人権の尊重は、今後とも守っていかなければならない大原則であります。

 私が二歳のとき、父は、一銭五厘の赤紙の召集で、フィリピンのレイテで戦死いたしました。このため、悲しいことではありますが、私には父の思い出がありません。しかし、それは決して私だけのことではないのです。あの戦争で、とうとい命をたくさん失いました。戦争未亡人や子供を亡くした親、戦争孤児など戦争の残した多くの傷痕は、今なおいやすことができないものとして残っています。悲惨な歴史を二度と繰り返さないためにも、憲法に流れる精神、すなわち、平和主義、主権在民、基本的人権の尊重という崇高な精神は常に忘れてはならないと考えます。

 しかし、時代の変遷とともに、現行憲法では律し切れないさまざまな問題が生じているのも事実です。そのため、昨年の通常国会において、衆参両院に憲法調査会が設置されました。憲法問題についての本格的な論議が行われることとなりました。かつては、憲法の論議さえもタブー視された時代がありましたが、今では、各種の世論調査でも、憲法改正に賛成する人が六割を超えるところまで来ています。憲法について改めるところは改めるとの意見が国民の中でも既に過半数を占めているという事実を、我々政治家は重く受けとめなくてはなりません。

 私は、二十一世紀にふさわしい、国民のための新しい憲法が必要であると考えます。そのためにも、まず、広く深く憲法論議を行うことであります。さらに、国会に限らず、さまざまな場での積極的な憲法論議が必要だと考えます。その議論は、伝統と文化、政治、経済、社会、外交、安全保障など各般にわたる、二十一世紀の新たな日本の国家像についての国民的議論になるに違いないと考えます。総理の憲法問題への取り組み姿勢と基本的なお考えをお聞かせください。

 次に、外交問題をお尋ねします。

 私は、外交の根幹は、確固たる定見を持ち、揺るぎない国際感覚で行うべきものと考えていますが、総理の考えておられる外交の根幹とはいかなるものなのでしょうか、まずお尋ねしたいと思います。

 限られた時間ですので、個別には、日米、日朝、日ロ関係についてのみお尋ねします。

 まず、日米関係ですが、総理は、共和党のブッシュ新政権と早急に対話の機会を持つべきではないでしょうか。日米関係は、言うまでもなく我が国外交の基軸であります。国際政治を左右し、アジア太平洋のみならず、世界の安定に大きく寄与している日米関係は、微動だにさせないことが肝要であります。今後の日米関係のあり方について、基本的な考え方と日米首脳会談の見通しについての総理のお考えを伺いたいと思います。

 次は、日朝関係ですが、朝鮮半島をめぐっては、昨年一年間に和平への大きな変化がありました。このような中で、我が国としても、日朝国交正常化を本年中に実現することを目標に外交努力を尽くすべきであります。総理は、昨年、七年半ぶりに再開された日朝国交正常化交渉の新たなページをめくりたいと述べられましたが、今後の日朝関係をどのように進展させるのか、お考えをお聞かせください。

 ただ、日朝関係を推進するに当たって忘れてはならないのは、友邦韓国の理解であります。

 先日、JR山手線の新大久保駅で線路に転落した日本人を救おうとして死亡した韓国人留学生イ・スヒョンさん及び関根史郎さんの勇気は、我々に多くの教訓を残してくれました。心からイさんと関根さんの御冥福をお祈りいたします。とりわけイさんの勇気ある行動は、日本と韓国は一衣帯水の隣人であることを改めて教えてくれました。韓国の理解なくして日朝関係の推進はないとの立場を再確認したいと考えますが、いかがでしょうか。

 最後に、日ロ関係ですが、昨年、総理は積極的な対ロ外交を展開されましたが、クラスノヤルスク合意が実現できなかったことはまことに残念なことでありました。本年中に領土問題を解決し、平和条約を締結することを目標に努力すべきであります。日ロ首脳会談の見通しと、この会談に臨む決意を含め、今後の日ロ関係の構築にどのように取り組んでいかれるおつもりか、お聞かせください。

 以上、私の所見を交えつつ、総理に幾つかの質問をさせていただきました。二十一世紀の我が国の指針を決める大事な今国会の代表質問の最後に私が申し上げたいことは、二十一世紀は心の世紀、心を取り戻す世紀にしなければならないということであります。

 二十世紀の後半は、物の世紀と総括しても間違いではないでしょう。幸せの価値観が余りにも物質的な、経済的な豊かさに置かれ過ぎたのではないでしょうか。私たちは、物が豊かであれば、裕福であれば幸せなんだ、物がなければ不幸せなんだとの思いを持ち過ぎたのではないでしょうか。そして、二十世紀後半は、経済が繁栄し、物が豊かになった反面、日本人としての大切な魂や心、具体的には、家庭のきずな、親子のきずな、兄弟愛、そして、友達を思う心、国や郷土を愛する心、そうした大切なものが失われてしまったのではないかと思います。

 私には、多感な青春のころ、一時期、不良少年だった時代があります。母に悲しい思い、心配をかける、つらい思いをさせる、そんな過去を今思い出しております。しかし、今こうして曲がりなりにも私があるのは、父のいない貧乏な母子家庭の中ではありましたけれども、子供を必死に育てる親の背中を見ることができたからだと思っております。そして、母と子の揺るぎない信頼を築くことができたからだと思っております。また、優しく厳しく、励まし、希望を与え続けてくれた教師との温かいぬくもりの師弟関係を築くことができたからだと思っております。

 貧しくとも、私たちの少年時代は夢があり、眼は輝いていました。青少年による凶悪な事件が頻発している現状を見るにつけ、何としても二十一世紀は心を取り戻す世紀にしなければならないと考えますし、我々政治家の責任の重さを痛感いたします。

 いじめや青少年犯罪、学級崩壊や問題教員、大学教育の現状や成人式の混乱など、本当にこの国はこのままで大丈夫なのか、率直にそのような危機感を覚えます。しかし、我が国の二十一世紀を担うのは、青少年、子供たちであります。子供は国の宝なのです。彼らが、人類の知的遺産を受け継ぎ、豊かな心と創造力、たくましさを備えた日本人として成長していけるよう、そして、我が国の将来がすべての人々にとってより明るく幸せなものとなるように、我々も全力で教育改革に取り組まなければならないと考えます。(拍手)
 そのため、今国会で我が国の将来像や教育のあり方について大いに議論し、英知を出し合い、日本新生のための改革国会の名にふさわしい、実りあるものにしたいと心から願うものであります。今国会の最大のテーマである教育改革にかける総理の意気込みをお聞かせください。

 私は、どちらかといえば寡黙な人間だと思っています。それゆえに、総理の雄弁に常々大変感心しております。しかし、ともすれば総理の舌も時々非常に滑らか過ぎて、国民の皆さんは戸惑うことも多いのではないでしょうか。しかし、総理の持ってあるすばらしい判断力、決断力、洞察力を駆使されて、自信と情熱を持って我々の先頭に立ち、政治のリーダーシップを発揮していただきたいと心から願うものであります。

 さて、最後になりますが、私の政治の師である田中六助先生は、今から十七年前、第九十八回通常国会において、この本会議場の同じこの壇上から代表質問を行われました。当時、田中先生の体は病魔にむしばまれ、字を読むことのできないほど視力が落ちてありました。しかし、田中先生は、不屈の精神をもって、この代表質問を三十分にわたり原稿を全く見ずに堂々となし遂げられたのであります。その先生の鬼気迫る迫力に議場は圧倒され、先生の質問が終わるや否や、万雷の拍手が鳴りやまなかったのであります。私は、その感動と感銘を生涯忘れることはないと思っております。

 田中先生が病躯を押してでも代表質問の大役を立派に果たされたのは、まさに政治家としての使命感にほかならないと思います。今こうして私が同じ壇上に立つことに限りない感慨を覚えますと同時に、私も政治を天命として願う一人として、自戒とそして倫理を高める中で、常に気迫と気概を持って政治家としての使命と責務を果たさせていただきたいと思うのであります。

 国民の皆さん、森総理は今国会を改革国会と位置づけられました。改革に取り組もうとする今、これからが一番厳しい、つらいことが続くわけでありますが、もし挫折があるとするならば、日本の将来はありません。私たちは、二十一世紀を切り開くために、政権政党として責任ある政治家の姿勢は、国民に夢を売るばかりでなく、迎合するものでもなく、常に厳しく現実を直視して、ともに痛みを分かち合って、二十一世紀の足固めをすることを勇気を持って説くことであります。

 国民の皆様には、政治を自分たちの問題としてとらえ、自分たちに何ができるか、自分たちは何を引き受けるべきかを考え、そして、ともに行動して、日本の政治を、二十一世紀、未来のある政治に構築していきたいと思います。

 結びになりますけれども、森内閣の新時代へ向かっての再出発の門出に当たり、森総理並びに閣僚の皆様方の御活躍と御研さんを心からお祈り申し上げまして、私の質問を結びます。


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